春風亭一蔵 独占インタビュー(5)

「師匠や一之輔兄貴のように、ハートを強くしたい。」

― (兄弟子の)一左さんがもう真打になります。ちょっと先に目をやると、一蔵さんももうすぐ…。真打昇進が見えてきた香盤位置にいらっしゃると思います。昇進に対する思い・楽しみ・怖さなどをお聞かせください。

 

はい。そうですね。もうそうっすね、近いっすね。

 

― そこに向けて今から、こういう計画で~、みたいなお考えはありますか?

 

まったくないですね。ただ、「もっともっと自分を分かってる状態で真打になんなきゃな」とは日々思っています。あと、これも人それぞれだと思いますが「二ツ目のまんまが良い」っていう噺家もいるじゃないですか。

 

― はい。

 

僕は逆で、早く真打になりたい。「あと何年だね」って支えてくださってるお客様に、「来年ですから」「再来年ですから」って言って待っていただくのが申し訳ない気持ちがしています。もう早く(真打興行などの儀式を)終わらせて、それで寄席を目指して、寄席にたくさん出られるようにとにかく精進していきたい。

 

― なるほど。どういう落語家さんに将来なりたいですか?

 

そりゃぁもう、(師匠の)一朝ですね。寄席に毎日出られたら、もう何もいらないです。「テレビ出たい」とか「弟子が欲しい」というのはまったく無くて、「寄席に出演の機会がもらえるような噺家に」というだけです。「あのホール落語に出たい」とか「独演会で何百席を埋めたい」というのよりも、寄席に出てたい。それが一番の目標。なので、なおのこと師匠のように、師匠のような存在になれたら良いなって思っています。

 

― 具体的に、どういうことを、どうやっていくと一朝師匠みたいになれると思っていらっしゃいますか。自分で「こうしなきゃ」みたいに思っていることとか。

 

まず、「平常心で高座を務めることができるようになる」ですかね。お客さん(の反応)に操られないようになりたい、そう思いながらやっています。でも、まだ全然出来てないんですけどね。

 

― お客さんの反応に操られるというのは?

 

お客さんが笑ってないと、「(笑わせるために)もっと大きくやらなきゃ!」と思うことがあるんです。

 

― お客さんにウケてない時は(噺の途中でも)心配になるんですか?

 

不安です。めちゃめちゃ不安です(苦笑)。

 

― それはあれですか、「ここで笑わせるぞ」ってシーンで(予定していた)反応がないと…?

 

例えば枕でもそうですけど、「(お客さんの気持ちがこっちに)来てないなぁ」というときは不安ですね。

 

― 笑ってる、笑ってないってやっぱり見えるものですか?

 

見えるんですよ、僕、ものすごく見えるんですよ。仲のいい仲間はみんな知ってるんでんすけど、僕、こう見えても小心者で。こうなってる(からだを小さくする仕草)。「おいっ!」っていう(威勢の良い)風に見えるんですけど、ものすごい気にしいで(笑)。

 

高座で「笑ってんの…?」ってすぐ不安に思っちゃうんですよね。でも、名人って本当に図々しいじゃないですか(苦笑)。うちの師匠とかも。「笑ってない?んだったらどうぞ」みたいな。師匠だってもウケないときもあるわけですね、寄席で。それでも「気にしないでやるよ、こっちは」っていうあの気の強さがない限りは(あのレベルの)プロにはなれないんじゃないかなって思います。

 

例えば、一之輔兄貴とかもそうですけど、会によっては、あの兄貴の見事なくすぐりも来ない(うけない)ときもあるんですよ。それでも兄貴は「一之輔ですけど何か?」みたいな感じでやり続ける(笑)。それこそが真打なんだろうなって思います。

 

でも今の僕はそこで、「これがダメだったら、こっちに下げてみよう」「もっとわかりやすいの変えてみよう」みたいにおもってやっちゃう。(自分でも、そんなこと)やっちゃいけないと思ってんのに。

 

今の段階では「あぁ、ウケてない。じゃあこっちやろう」ってその、ネタを変える変えないじゃなくて、その噺の中でも一喜一憂なんかしてると毛頭本筋からズレてっちゃう。どんどんダメになってくっていうのが分かってるのに…。

 

で、ここ二年ぐらいですかね。そういうところをとにかく脱却しようと。「もう気にしない、絶対気にしない」って。ようやく、ここ一年くらい、だいぶ(お客さんの反応を)気にしないで(淡々と)やるようにはなってきました。まだ気にしてる部分はあるんで、もっともっと「自分を信じて、自分の落語を信じてないとダメだろうなぁ」とは毎回思ってますね。はい。

 

「お客さんが身を乗り出すような、ひとつになるような、そういう高座をやりたい。」

― ありきたりな表現ですが、ハートが強くないと?

 

そうですね。ハート。だからウケてる時は(堂々としてるから)場もよくなってくるんですよ。安心しきってるんで。そうすると「もっと遊ぼうかな?」って気にもなるんです。ウケてない時こそ、そうでいなきゃいけないのに。日々、反省の日々を送ってます。どんな状況下でも自分を信じて自分の芸をやる、それを守りたいです。

 

― でも気持ちいいんでしょうね。自分の思った通りにお客さんが操られて、笑ってたり、しくしくしてたりすれば。

 

ものすごく気分が良いですね。いまの僕がそれを唯一できるのは学校寄席!もう「子ほめ」しかやらないんですけど、これが気持ち良いぐらいウケるでんすよ(笑)。完全に作り変えた学校寄席バージョンの「子ほめ」なんですけどもね (笑)。子どもたちは一瞬でも飽きさせると、ツーっといなくなっちゃうんで、もう絶えずもう面白いよ~っていうようなやり方なんです。

 

― いま伺ったような心配を一朝師匠に相談されたことってありますか?

 

一度だけあります。前座の時に一度だけ。落語協会の2階で勉強会を始めたときの話で、三席ともすごく滑ったことがありまして、師匠に「もう、どうしたら良いか分かんないです」って。

 

― その時、師匠は何て?

 

「腐らずにやり続けろ」って。「とにかく腐らずに。頑張ってやっていくしかない」って。それだけですね。あとは同じく前座時代、扇遊師匠(※)に稽古をつけもらった際に、「どうやったら師匠みたいにできるんですか?」って聞いたことがあります。「俺も随分長いことやってるからなぁこの仕事」って返されて終わり(笑)。つまり「自分で見つけていくしかないんだよ」ってことだと悟りました。後にも先にも(人に質問したのは)それだけです。

 

入船亭扇遊(いりふねていせんゆう):2019年(令和元年)紫綬褒章を受章するなど、様々な受賞歴を誇る「ザ・落語家」と呼ぶにふさわしい名人。映画「ねぼけ」にも登場。扇遊師匠の「替り目」は、この映画のハイライト。息を飲む名人芸が観る人の心を捉えて離さない。

 

― (他の噺家さんに)聞かないのは、聞いてもどうしようもない(自分自身でやるしかない)と思ってるからですか?

 

多分、言ってくれる方は自分で思ってるのと一緒だろうなっていうのは何となくそうだと思ってます。到達地点は一緒で、もう言ってる側が違うだけで、「恐らく、こう言われるだろうな」ってのは感じてるんでしょうね。自分で。なんとなく。

 

― その相談しない、相談してもこう言われるだろうなと思ってる「こう」は何ですか?どう言われると思うんですか?

 

なんですかね、そう言われてみると。何て言ったら良いんですかね。それとても良い質問ですね。なかなか言葉にできないんすよね。自分がホントに良い出来のときって、お客さんがこう“グワッ”って来るんですよ、こっちに向かって。乗り出してくるというか。「(客席が)引く」の真逆。そういう感覚の高座を全席でやりたいんです。僕が喋る一席一席、全部、お客さんが身を乗り出すような、ひとつになるような、そういう風にやりたい。それが叶ったら恐らく、ちゃんと寄席には呼ばれるようになっているんだろうなとは思っています。何かすいません。曖昧で。

 

― いえいえ。とんでもないです。とてもリアルです。

 


チラシ掲載の文章は、インタビュー記録からの抜粋です。全文は、ここでしか読めません。ぜひ、読んで感じて知ってください。一蔵さんの本音、素顔。そして「一蔵落語」。

 

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