春風亭一蔵 独占インタビュー(3)

「あの文七元結は、文蔵師匠の厳しい稽古の賜物です。」

― 一昨年の暮れ、小太郎さん(※)との二人会「あラやしき」で聞いた「文七元結」に大変心を揺さぶられました。とても感激したんです。

 

あっホントですか?「文七元結(※)」も好きな噺の一つなんですよ。

 

※ 文七元結(ぶんしちもっとい):三遊亭圓朝の創作。腕はいいが博打好きで借金のある左官の長兵衛。長兵衛の娘で、家計を助けるため(お金をこしらえるため)自ら身売りするお久。お久を見受けした吉原にある遊郭「佐野槌(さのづち)」の女将。お金を失くし身投げしようとする男・文七らが織りなす一大人情噺。登場人物が多い大ネタ。

柳家小太郎(こたろう):柳家さん喬門下。第13・18回くがらく出演者。芸と器の大きさに定評のある、将来の大看板候補。

 

― 私、泣いてしまいました。びっくりしました。ホントに。それこそ引き込まれましたから。先ほど一蔵さんがおっしゃった、一朝師匠の「片棒」を聴いた時のように。

 

文蔵師匠(※)に教わったネタです。これは厳しく稽古していただいた噺のうちの一つです。かっこよかったんですよね、文蔵師匠の「文七元結」。

 

どうしてもこの4日間で覚えないといけない状況の時で。事前に音源で聞いて、ある程度覚えてから、正式にお願いしたんです。

 

文蔵師匠 「お前、いつやんだ?」

一蔵 「4日後です。」

文蔵師匠 「4日後!?なら、明日来い。聴いてやるから。」 

 

ってことになりまして、翌日、文蔵師匠のお宅に伺いまして、目の前でやったんですけど全然ダメで。「一蔵、これヤバいぞ、お前。これに俺、OKは出せないよ。(その会でネタ出ししたとはいえ)これではダメだ」。「師匠、そこを何とか、今覚えないとやばいんです」、「じゃ、また明日聴いてやるけど、俺は(このままではネタおろしするのは)無理だと思うぞ」って。何十か所も直されてまして。その夜は徹夜で稽古しました。

 

指摘された部分を全部直して、ようやく何とかなるかなと思った朝、少し寝ようした朝9時ぐらいに文蔵師匠からお電話いただきまして。

 

文蔵師匠 「一蔵」

一蔵 「おはようございます!今日、師匠、またお稽古お願いします!」

文蔵師匠 「(徹夜で)いっぱい稽古したろ。じゃあやって良いよ」

 

って言われて(笑)。

 

― おぉー。かっこいいですね。

 

でしょう?!このエピソード、文蔵師匠ご本人にも言ったんですけど、文蔵師匠は照れて「二日酔いだったんだよ。馬鹿野郎!」って。「いっぱい稽古したんだったらいいよ。やってこい(許可する)」って言ってくれたという思い出があります。それがあの「文七元結」です。

 

― なるほど。そういう熱い気持ちというか、思い出というか、そういうものも噺に乗るんですかね…。

 

なんですかね。だから忘れないですよね。そういう思い入れのあるエピソードって。暮れの噺ですけど、1年中やれって言われてもできるネタです。だからそうやって、一席一席稽古しなきゃダメなんですよね (笑)。と、ものすごく思います(笑)。はい。

 

― だから、あのとき、一蔵さんがしっかり(吉原の佐野槌の)女将さんに見えたんですね。凄いな…と思って。

 

いやいや…、もう太っててすいません(笑)。

 

― いえいえ。ホントに。京塚昌子(※)さんって知ってます?それまでは、落語の中の女将さんって、どうしても細面で華奢なイメージがありましたけど、一蔵さんの文七元結」を聴いたときにはじめて、「あ、女将さんだ!こういう女将さんいるじゃん!」と、初めて具体的にイメージできたんです。

 

あぁ、うれしいですね。それこそ、文蔵師匠が仰っていたのが「一番大事なのは、この女将さんとのやり取りだからな」って。「みんな、橋の上とか、その後の茶番みたいな旦那とのやり取り部分をやりたがるけど、この噺は、ここをちゃんと持ってこない限りは成立しないから」って。なので自分もここを大事にって思ってやっています。まだまだですけども。はい。

 

― 良かったですよ。泣いてたお客様もいっぱいいましたし、涙だけじゃなくてちゃんと笑うところはドッカンドッカン客席が湧いていましたからね。緩急が凄くて。

 

ありがとうございます。

 

橘家文蔵(たちばやなやぶんぞう):3代目橘家文蔵。強面でダイナミックな高座は迫力満点。と同時に登場人物の細かな心理描写、演じ分けに定評がある。一蔵さんが惹かれるのも納得。扇辰師匠・小せん師匠と共にフォークユニット「三K辰文舎」(さんけいしんぶんしゃ)も。

京塚昌子(きょうづかまさこ):恰幅が良く、割烹着が似合う母親役として絶大な人気を誇った昭和の大女優。「日本を代表するお母さん女優」と称されていた。

 

「女性として古典落語を演じる上で、大切にしているのは声と口調です」

― 一蔵さん、そう言えば新作はされないんですか?

 

『新版三人集落語会(※)』というユニットをやっているのですが、その中のひとつで夏に「納涼五夜」というのがあります。その中で、年に一遍だけ新作落語を披露しています。

 

※ 新版三人集落語会:春風亭一蔵、柳亭市弥入船亭小辰の会。「納涼五夜」の中で、新作の会があり、その時は三人とも新作を作ってやるという決まり。

 

― 古典落語の方が良いですか?

 

いや、僕はもう(新作落語の)センスや、物語を作ることができる才能がないことを自覚しているんで、せめて古典だけでもちゃんとやろうと思っています。

 

― 市弥さん、小辰さんと仲良しなのはやっぱり同期だからですか?

 

そうですね。三人で一緒に二ツ目になったので仲が良いですね。二人がしっかりしているので、もうありがたい限りです。ホントに。二人のおかげで、私があるようなもんなんで。

 

― (今度一緒の会をやる)始さんとも仲良しなんですね。

 

そうですね。よく飲みますね。なんか気が合うんですよね、始(※)さんは。前座の頃からよく仲良くしてますね。志ん松(※)とか。

 

古今亭始(ここんていはじめ):古今亭志ん輔門下。明るく切れのある軽妙洒脱な高座で人気。

古今亭志ん松(しんまつ):古今亭志ん橋門下。始さんの同期。


チラシ掲載の文章は、インタビュー記録からの抜粋です。全文は、ここでしか読めません。ぜひ、読んで感じて知ってください。一蔵さんの本音、素顔。そして「一蔵落語」。

 

春風亭一蔵 独占インタビュー(1)

春風亭一蔵 独占インタビュー(2)

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