春風亭一蔵 独占インタビュー(2)

「落語家になって、一生分の運を使い切ったと思いました」

― 見習い時代に普通の仕事、バイトをしてたというのは本当ですか?

 

本当です。僕、噺家は、噺家の修行時代って全員住み込みだと思ってたんですよ。だから、仕事なんかしてたら弟子に取ってもらえないと思っていたので、師匠に入門する前に、弟子入りの許可をもらうまえに(運送業の)会社を辞めてたんですよ。

 

辞表出して「明日辞めさせてくれ」って会社に言ったら、「大人はそんな簡単に辞められないの!」って言われて(笑)。「もう、ひと月働きなさい」って言われたんですけども、お願いして辞めさせてもらって。で、辞表出した翌日、師匠に入門を志願するという。

 

弟子入りの際、「お前、今仕事何やってんだ?」って話になりまして。「いや、もう辞めてきました。師匠のとこで修業しようと思ってますから」って。そしたら「まずは、見習いからはじまるんだ。(なんで辞めてきちゃうんだ)。今、金を貯めないでいつ貯めるんだ。見習いのうちはとにかく1円でも貯めるんだ。前座になったってすぐは食えないんだから。そのかわり前座になったら辞めるんだぞ」と。なので見習い時代は師匠の鞄持ちをしながらできるバイトをやっていました。

 

― 前座名「朝呂久(ちょうろく)」の由来を教えてください。

 

ご存じの方も多いと思いますがうちの師匠は笛の名人でして、鳴り物師(※)の芸を持つほどのプロなんです。その鳴物師の世界で有名なのが由緒ある望月家。その中に「ちょうろく」という方がいたから、と聞いたことはあります。一之輔(※)兄さんの前座名「朝左久(ちょうさく)」も、そのようですね。

*編集部注:ネットで調べると、望月長左久(ちょうさく)さんがいらっしゃることは確認できました。

 

春風(一刀)さん(弟弟子※)のときとは違って(※春風一刀さんのインタビュー参照)、僕の時はずっと名字で呼ばれてて、いよいよ楽屋入りが決まって、「名前どうなるんだろうな」って思ったらうちの師匠に「春風亭朝呂久」って書いた短冊を渡されて、「今日からお前これな」って感じでした。

 

※ 鳴り物師(なりものし):長唄や歌舞伎の下座音楽(げざおんがく)で、鳴り物を扱う囃子方(はやしかた)のこと。下座音楽とは歌舞伎の演出において、基本的に舞台下手の黒御簾の中で演奏される効果音楽のこと。一朝師匠は二つ目時代、歌舞伎座や新橋演舞場などの歌舞伎公演で御簾内で笛を演奏されていたプロ中のプロです。

春風亭一之輔(いちのすけ):一朝師匠の2番弟子。Youtubeに解説した「春風亭一之輔チャンネル」での連続10日間興行でも話題の超売れっ子落語家。

春風一刀(はるかぜ いっとう):一朝師匠の7番弟子。第14回くがらく出演者

 

― なりたかった噺家になれました。どうでしょうか。

 

一生分の運を使ったと思いましたね。もちろん、甘くない世界だというのはわかってたんですけど、入門前に一般の仕事をばりばりやってきてるじゃないですか、こっちは。テキ屋とかトラック運転手とか。肉体労働ですよ。社会経験が多かった分、もちろん落語家も大変は大変ですけれども、ただしゃべってお金をいただけるってことに関しては「あぁありがたい!」とは思いました。

 

「落語家なんて無くても無くても良い商売」なんてよく言われたり、マクラで言ったりしますが、僕本当にそう思ってるので、「これでお金を頂戴して、呼んでいただいて、こんなありがたい商売はないな」ってずっと思っています。

 

― 正直、前職に比べたら楽だと思いました?

 

楽というか、大変な部分が違いますよね。普通の肉体労働と比べて。あと、この業界にいて良いなって思ったのは、飲み会ですね。(落語家)仲間と行くじゃないですか。誰もマイナスなことを言わないんですよ。僕のトラック運転手時代とか、飲んだら絶えず上司の文句とか給料の文句とか多かったですよ。でも、噺家の飲み会って「あの師匠凄いよね!」とか、「こんな面白い噺あったよ」、「どうやったら頑張れるんだろうな」みたいな話。芸論しても、みんな上を向いてるわけですからね。この業界入って、こんな素敵な仲間みたいなのがいるんだなって思いました。

 

オウム返しの噺。「ずっとこれやりてえなぁ」って。

― 最初に教わったのは何ですか?

 

「寿限無(※)」です。

 

― 寿限無はCDでは聴いてなかったんですか?

 

聴いてなかったですね。これも当時はうちの師匠があんまり調子が良くなかったんで、一左兄貴(※)から師匠のテープを借りて、それで覚えました。ただ、それだと上下(かみしも ※)がわからないんですよ。それを一左兄貴が一つひとつ丁寧に俺に教えてくれました。次は、「一之輔に道灌(※)習ってこい」と言われて、一之輔兄貴に道灌を習いました。覚えて一之輔兄貴の前でやったところ「お前、寿限無で師匠に何を習ったんだよ!」って言われるぐらい無茶苦茶でして (笑)。そのあと「たらちね(※)」「子ほめ」かな。

 

※ 寿限無(じゅげむ):早口言葉あるいは言葉遊びとして知られる古典的な噺。ちなみに、寿限無とは、限り無い幸福のことを言います。

※ 道灌(どうかん):隠居の家に遊びに行った八五郎。太田道灌が山中で村雨(にわか雨)にあった時の様子を描いた屏風絵を見つけて…。

※ たらちね:たらちねとも言う。漢字で書くと『垂乳女』。長屋に住む独り者の八五郎に縁談が。やって来たのは、やたら言葉づかいが丁寧な女性で…。

※ 春風亭 一左(いっさ):一朝師匠の4番弟子。2020年3月下席より真打昇進。

※ 上下(かみしも):落語家は一人で複数の登場人物を演じ分けなくてはなりません。そのため、顔を左右(上手・下手)に向けて話し、どちらの側に向いているかで登場人物を演じ分けます。これを「上下(かみしも)を切る」と言います。ちなみに客席から見た場合は、右手側が上手です。家の中の設定では、年長者や身分の高い人が座る場所が上座。なので、例えば隠居さんと八五郎が家の中で話す場面では隠居さんは上手(客席から見て右側)にいる設定。そのため落語家は隠居さんを演じる時はお客さんから見て左手(下手)方向を見て話し、八五郎を演じる時は右手(上手)の方向を見て話します。

 

― 運転手さん時代に聴いていて、「落語、俺出来んじゃね?」ていう気持ち。打ち砕かれたのはいつですか? 

 

もう、入門してすぐです(笑)。もう速攻で打ち砕かれました。はい。こんな大変なんだって。初高座は新宿の昼席でした。初めて楽屋入りして、3日目くらいに「寿限無」をやったんですけど、面明り(つらあかり。スポットライト)が熱すぎて…(笑)。もう何がなんだか分からない間に10分間が終わってました。

 

― 落語が楽しくなってきたのっていつぐらいですか?

 

楽しい…。

 

― 余裕が出てきたと言いますか…。

 

いやぁそれは今もまったく無いですね。その日によって「あ、今日楽しいな」みたいな時はありますけど、でももう毎日きついですね。正直(高座に)上がりたくないなって思って行ってる方が多いです。「今日楽だな」って思ったことは一度もないです。ただ「楽しいな」って思った時は、お客さんがすごい陽気なとき。基本はもう夢中でやるだけです。余裕なんかまったくないですね。

 

― どんな噺がお好きですか?

 

オウム返しの噺(※)が好きです。例えば「のめる(※)」、「天災(※)」、「子ほめ」もそうですし、「短命(※)」とか。オーソドックスな落語が。ウケるウケない別として、自分で売り物としてる訳じゃなく好きな噺ですね。「ずっとこれやりてえなぁ」って思うような気分でやってるのはオウム返しの噺が多いですね。

 

※ オウム返しの噺:人のセリフをそのまま繰り返すこと。人に教えられたまま、同じように話そうとするが上手くいかずに失敗するという種類のネタ。

※ のめる:「のめる」が口癖の男が、「つまらん」が口癖の友達と賭けをするのだが…。

※ 天災(てんさい):隠居の家に「離縁状を書いてくれ」と飛び込んできた短気な八五郎。紅羅坊名丸(べにらぼうなまる)という偉い心学(しんがく)の先生がいるからそこへ話を聞いて精神修行をしてこいと言われ…。

※ 短命(たんめい):出入りしている伊勢屋の一人娘の婿養子が続けて3人死んだ。出入りの植木職人・八五郎が、不思議に思って横町の隠居に聞き来たのだが…。

 


チラシ掲載の文章は、インタビュー記録からの抜粋です。全文は、ここでしか読めません。ぜひ、読んで感じて知ってください。一蔵さんの本音、素顔。そして「一蔵落語」。

 

春風亭一蔵 独占インタビュー(1)

春風亭一蔵 独占インタビュー(2)

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春風亭一蔵 独占インタビュー(4)

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