柳亭こみち 独占インタビュー(3)

「古典落語の住人には女性だっているはず。そうだ、彼女たちに光を当てよう。」

本当に「もっと楽しくしたいなあ」と思うネタが多くて。私にとっては、ですよ。それまでは、ただやってたんですよ。でも、ただやってるだけだと男性の噺家に叶わないんですよ。古典落語って男の人がやる都合上、ほとんどが男の人しか出てこないわけです。でも考えても見てください。江戸時代も明治時代も女の人だって男性と同じように生きて暮らしてたわけです。でも古典落語には、ほとんど出てこない。単に光(スポットライト)が当たってないだけだったんです。

 

一旦、この視点に気づくと、古典落語の中の今まで隠れていた女性たちがどんどん見えてくるようになりました。見方を変えると、古典落語には女性たちが生き生きと暮らしてたことがわかるんです。

 

例えば「蒟蒻問答」。蒟蒻屋の六兵衛さんが主人公ですが、その六兵衛さんにはおかみさんがいてもおかしくないわけです。そのことに気づいて、おかみさんを主人公にしてやっています。あとは「金魚の芸者」とか。これは主人公ではない部分に違和感を抱いていました。噺の中で置屋(おきや。芸者や遊女を抱えている家)に行くシーンがあるんですが、応対するのが旦那。おかしいでしょう。普通、置屋で応対するなら女将さんかお姉さんですよ。そこに気がついてから変えました。今はどうやって女性を出すか、古典落語の女性住人を見つけ出すか。そればかり考えています。

 

― なぜ、その視点には先人(女性落語家)たちは気がつかなかったのでしょうか。

 

女性の師匠方も気付かなかったわけではないと思うんです。でも、今よりももっと伝統に厳しかったのだと思いますね。過去からの流れが、そういう改作を許さなかったとか。詳しくはわかりませんが。

 

「女性として古典落語を演じる上で、大切にしているのは声と口調です」

― こみちさんは女性が古典落語を演じる上で、どのような点を大切にしていますか?

 

声と口調です。

 

まず声。女性の声は男性の役を演じるときに、声が裏返ってしまうと男性らしく聞こえなくなってしまうことがほとんどです。ですから、地声の表現の幅と音域を広げることが大事です。地声をどのように使えば落語の男性の役を自然に演じられるか、とことん鍛えていく必要があると思っています。

 

次に口調。男性が女性の役を演じるときは、語尾を女性のように「~だわ」「~なのよ」と言えば、その役をお客様が女性と感じてくださる場合が多いです。でも女性が男性の役を演じるときは、セリフの初めから語尾の最後の最後まで貫徹して男性らしくないと、お客様はすぐに違和感を持ってしまいます。ですから、自分の耳を研ぎ澄まして、セリフの細かなところも男性らしく聞こえるように、自分自身が敏感になり、そして男性の役を男性らしく聞かせる口の運びを、徹底的に鍛えなければいけない思います。

 

すべての女性の噺家に通じる方法論かどうかはわかりませんが、少なくとも私はそのように考えて、男性の役を演じるときには自分の声と口調に徹底的に敏感になり耳を研ぎ澄まして、演じ鍛え続ける必要があると思っています。

 

さらに大事なことは、お話ししたすべてのことが、自然に、簡単になされないといけないということです。がちがちになって演じる落語はお客様も演じる自分も楽しくありませんよね。声も口調も、ふわりと自然に古典落語のそれらにならなければいけないと思います。そういう意味でも、前座の頃から男性しか出てこない噺を演り続けることは、とても大事なことですよね。

 

― なるほど

 

あと、これまでの数々の失敗で気づかされたのは、登場人物や主人公をただ女の人に変えるだけではダメだってことです。自然じゃないとお客様が受け入れてくれませんし、安心して聞いていただけない。女性主人公が、あるいはボーナスキャラが古典落語の世界の中で生きてないとダメなんです。あり得る存在として、そこにいないと。そういう設定でないと。

 

「片棒」にも私なりの工夫と改良点があります。金と銀と鉄ではなく、3人目が鉄子。で、ある歌を歌うんです(笑)。

 

あるいは「船徳」。あんな楽しい噺ありませんよ。普通にやってものすごく面白い。そこにみんな、自分なりの工夫を凝らしてやろうとする。そんな噺ですよね。私が今さら他の人と同様に普通にやったって、お客様は見慣れています。主人公は若旦那のまま、彼の船に乗せる人、乗船してくる客を男性二人から女性二人に変えたんです。

 

― どんな女性二人ですか。

 

嫁と姑(笑)

 

― あぁ~、聞きたいっ!めちゃくちゃおもしろそうじゃないですか、その設定

 

もう苦肉の策ですよ(苦笑)。古典の「船徳」を尊敬するあまりの策です。どうやったって勝てっこないんです。だったら、いっそのこと、という。「どの方角(アレンジ)にも誰かが通った跡がある。だったら、誰も通っていないのはどこだ?」と。

 

― なるほど

 

先人への敬意です。その結果です。

 

だから私、今、世間の評価とか評論家の方の評価とか一切気にしません。誰からも認められなくてもいいんです。そんなことより、私の腹は決まったんです。「お客様を楽しませる」、もうこの一言に尽きます。目の前のお客様、それだけを見ていきます。

 

以前のインタビューの頃(2016年当時のくがらくインタビュー時点)は、まだ今の自分に出会えていない頃の話です。今の私は完全に心を決めていますから。私の今のやり方が合わない方には、ご縁がなかったとお互いに諦めるしかないです(笑)。

 


チラシ掲載の文章は、インタビュー記録からの抜粋です。全文は、ここでしか読めません。ぜひ、読んで感じて知ってください。こみち師匠の本音、素顔。そして「こみち落語」。

 

柳亭こみち 独占インタビュー(1)

柳亭こみち 独占インタビュー(2)

柳亭こみち 独占インタビュー(3)

柳亭こみち 独占インタビュー(4)

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