三遊亭わん丈 独占インタビュー(7)

「手ごたえをつかんだのは『近江八景』から。」

― 自分の落語…高座ができるようになったなと思った手ごたえは、どういうところですか?

 

「近江八景(※)」でしょうね。「魚の狂句(※)」もそうでしたけど、やはり「近江八景」。このネタをやるにあたってはだいぶ構成を変えましたから。今まで以上に古典落語を見つめ、新作の能力を、改作の能力をこのネタにぶつけようとしました。で、この「近江八景」がウケた。そしてウケない「フリ」の時間も気持ちよく「フリ」に専念できるようになった。だから、今はどの落語よりも「近江八景」をやっているときの満足度が高いんです。

 

しかも「近江八景」って、画(え)がしっかり浮かぶんです。そりゃ滋賀県のことは自分でよく知っていますしね(笑)でも、それが上手くいったことによって、他の落語も画が濃く浮かぶようになってきました。

 

近江八景(おうみはっけい): 上方落語の演目。東京へは4代目春風亭柳枝が持ち込んだと言われている。ちなみに、実際の八景とは以下。

1. 石山秋月 [いしやま の しゅうげつ] = 石山寺(大津市)

2. 勢多(瀬田)夕照 [せた の せきしょう] = 瀬田の唐橋(大津市)

3. 粟津晴嵐 [あわづ の せいらん] = 粟津原(大津市)

4. 矢橋帰帆 [やばせ の きはん] = 矢橋(草津市)

5. 三井晩鐘 [みい の ばんしょう] = 三井寺(園城寺)(大津市)

6. 唐崎夜雨 [からさき の やう] = 唐崎神社(大津市)

7. 堅田落雁 [かたた の らくがん] = 浮御堂(大津市)

8. 比良暮雪 [ひら の ぼせつ] = 比良山系

 

※ 魚の狂句(うおのきょうく):久しぶりに知り合いを訪ねてきた最近句に凝っている男。出されたお題に即興で句を作る即吟をやろうとするのだが…。

 

― 「魚の狂句」 はこれまで何回か高座にかけています。もう、自分のモノにした感じですか?

 

こないだ第84回人形町らくだ亭という会で「魚の狂句」をやってくださいって言って頂いてやってきました。ラインナップが凄かったですよ。前座さんがいて、一之輔師匠がお出になって、雲助師匠、仲入り、僕、さん喬師匠(※)っていう。すごい出番に顔づけされたなと。元々は(らくだ亭席亭の)和田さんが僕の「蝦蟇の油(※)」を聞いた時に、「魚の狂句やりませんか?」って声を掛けてくださって。

 

で、前座時代からお世話になっている桂春蝶師匠(※)に事情を話してお稽古に伺いました。「ほんまに魚の狂句でええの?あんまりやってる人いいひん噺やで?ま、どうせ変えるんやろうけど(笑)」って言いながら教えてくださいました。

 

柳家さん喬(やなぎやさんきょう):師・小さんの芸を受け継ぐ本寸法の古典落語の担い手。穏やかで優しい語り口。人情噺の評価が高いが、滑稽噺にも力量を発揮する当代きっての実力派。

桂春蝶(かつらしゅんちょう):実父である二代目桂春蝶の死をきっかけに落語家になることを決意。2011年には東京に拠点を移し活動の幅を広げる。

※ 蝦蟇の油(がまのあぶら):刀で紙を切り刻む口上パフォーマンスとともに、怪しげな膏薬を売りさばく大道芸「蝦蟇の油売り」。ところが…。

 

― 近江八景と言えば、11月18日(月)のわん丈ストリート(第20回)では「矢橋船」をネタ出しなさっています。滋賀のご出身として、これは以前から計画していた(狙っていた)ネタなのですか?

 

はい。たまたまなんですけど。

 

― あれは、やっぱり滋賀のご出身として?

 

それもあります。ただ単純に面白かったというのもあります。笑福亭たま師匠から習ったんですよ。たま師匠には前座の頃から可愛がってもらってて、今年の初めに会に呼んで頂いたんですけど、その時に「矢橋船(※)」をやられていて、知らない噺でめちゃくちゃ面白かったから、高座から下りていらっしゃったところをすぐに「あの噺、僕に教えてもらえないですか?」ってお願いして。「ええで。でも師匠がずいぶんと手を加えたネタやから(笑福亭)福笑(※)にいちおう許可とるから」って。でOK頂いてたま師匠から台本を戴いて。「上方弁でやんの?江戸弁でやんの?」って言われて。

 

― 上方落語を上方弁でやったご経験は?

 

一回あります。前座の最後の頃かなぁ、「四人癖(※)」 でやっているんです。上方の桂文三師匠(※)から習って。だから「矢橋船」 はなんとかうまく江戸落語にしてみようと。そのことをたま師匠にお話すると「わん丈君やったらなんかええ感じにちゃんとできるやろ。やりぃ」的なことを言って頂いて。嬉しかったです。

 

「魚の狂句」を初めて掘り起す、ほぼ掘り起しという形でやらしてもらったときに、「擬宝珠(ぎぼし)」 を掘り起こした経験をお持ちの柳家喬太郎師匠(※)に「どういう風にやればいいですか?どう取り組めばいいですか?」って聞いたんです。そしたら「いやもう好きにやっていいんだよ。その噺に対するリスペクトを持って、且つ大胆に」っておっしゃいました。ですからこういうことをやるときはそのお言葉の通り取り組んでいます。

 

笑福亭福笑(しょうふくていふくしょう):仁鶴・鶴光に次ぐ6代目松鶴一門の3番弟子。笑福亭鶴瓶は弟弟子。古典落語・新作落語の両刀使い。

桂文三(かつらぶんざ):5代目桂文枝の弟子。2009年に桂派の由緒ある名跡「文三」を襲名。5代目桂文三。親しみのある陽気な高座で大人気。

笑福亭たま:京都大学経済学部を卒業したのち、笑福亭福笑に入門。平成27年国立演芸場花形演芸会金賞他、数々の賞を獲得。

※ 矢橋船(やばせぶね):『伊勢参宮神乃賑』(いせさんぐうかみのにぎわい)、通称『東の旅』。喜六と清八による伊勢参りの道中を描いた一連の上方落語のひとつです。「矢橋船」(近江矢橋と大津を結ぶ船の中で、平家の秘宝である名刀「小烏丸」を探す侍二人と遭遇)の続きには、「宿屋町」大津に宿泊。客引き女と二人のやり取りが見どころ。「こぶ弁慶」宿屋の壁土を食べた男が、壁の中に塗りこめられていた大津絵の武蔵坊弁慶に憑依される。初代笑福亭吾竹作と伝える。「走り餅」逢坂の関で乞食に絡まれた侍を助けた二人は、名物走り餅をおごってもらうが、侍は突然しゃっくりが止まらなくなり…。

※ 四人癖(よにんぐせ):それぞれ異なる癖を持つ4人が集まった。そこで4人は…。

※ 擬宝珠(ぎぼし):さるお店の若旦那が寝込んでしまい、医者も原因がわからない。これは気の病いだろうと言うので幼馴染の熊さんに理由を聞きだしてもらったところなんと…。

柳家喬太郎(やなぎやきょうたろう):新作も古典も得意とする守備範囲の広い万能落語家。愛称はキョンキョン。柳家一門の伝統・滑稽噺のみならず、怪談噺でも迫真の語り口で見るものを圧倒する。変幻自在の高座で常に客席を沸かせる今の落語人気を支える代表的な売れっ子落語家。

 

― 滋賀のご両親の(わん丈さんを)見る目って、なんか変わりました? お母さんとか、その…

 

意外と変わんないですよ。

 

― そうですか? 滋賀での独演会も、前よりは増えたと思うんですけど。

 

増えてます増えてます。お婆ちゃんや親父は、お友達の前で鼻高々なのか喜んでいますね。でも母親は意外と変わりません。「いや、別にあんた昔からクラスでもあんなんやってたしさぁー」みたいな。意外と冷静ですね。

 

地元公演は昔お世話になった人に喜んでもらいたくてやってますね。当時の学校の先生とかみんな来てくれるんですよ。先生がこないだ「立派んなったなぁ」って。うれしいですよね。