三遊亭わん丈 独占インタビュー(5)

「お客様を楽しませる・笑わせるにはどうするのがベストなのか?お客様の笑顔からの逆算で考えています。」

― わん丈ストリートで「双蝶々」の伝え方、表現においては、独自の工夫も施されています。そもそも「双蝶々」を選んだ理由はなんですか。円朝モノとか圓生モノで言うと「乳房榎(※)」や「累ヶ淵(※)」など色々あります。その中でなぜ「双蝶々」を。

 

※ 乳房榎(ちぶさえのき)」:怪談乳房榎。明治期の落語家・三遊亭圓朝によって創作された怪談噺。

※ 累ヶ淵(かさねがふち):「真景累ヶ淵」(しんけいかさねがふち)。同じく圓朝によって創作された怪談噺。

 

まず、師匠が国立でやっていたのを前座の頃聞いたからです。それと、天どん兄さん(※)が鈴本で主任をとった時に(双蝶々の)真ん中の部分をやっていて。

 

その時に落語を見たことない僕の知り合いが見に来ていて「あの噺、滅茶苦茶面白いね。続きを聞きたいから明日も来る」って。僕その明日は出ないのに(笑)。落語を知らない人にそう言わせる作品ってすごいなって。まぁ天どん兄さんの腕もすごいんですけど。それで俄然興味が湧いて。

 

三遊亭天どん:円丈師匠のお弟子さん。新作落語と古典落語の両方に取り組む。とぼけた人柄、独特の雰囲気から醸し出される天どんワールドが人気。新作落語教室の講師をするなど知性派でもある。

 

― 今度九月の会で 「雪の子別れ」を。

 

あ、やります。

 

― どうですか? 上・中とまた雰囲気が違う、下の部分は。

 

あ、まだ覚えてないです。

 

― わかりました(一同爆笑)

 

すみません(笑)。僕もまだ知らないので、お客様とおんなじワクワク感を持っています。いやほんとに、こないだも中の部分を演りながら「この後、どうなるんだろう」って思ってました(笑)

 

― いやぁ~~、いいですねぇ

 

これはもう、雲助師匠(※)に感謝しかないですね。そういう覚え方でいいって言われたので。普通は全部まとめて覚えていくでしょう?でも雲助師匠から、そういうやり方していいって言ってもらえたので。そういえば雲助師匠にお稽古のお願いに行った時「え!通しで全部やりたいの?」 って、やっぱりそこはビックリされましたね。「はい…全部です…」って。

 

五街道雲助(ごかいどうくもすけ):十代目金原亭馬生(きんげんていばしょう)の弟子。平成28年度の紫綬褒章受章者。正統的江戸落語の継承者として名高い。

 

― 雲助師匠に「双蝶々」を教わりたいと思ったのは…

 

雲助師匠の怖い噺って本当に怖いじゃないですか。

 

― 同感です。怖いです。わかります。雲助師匠の 「もう半分(※)」 とか聞いたとき、ゾクゾクしましたから

 

でしょ。僕が前座の時に一度、円丈と雲助師匠の会がありまして。楽屋で円丈と一緒にモニター越しに雲助師匠の怪談噺を聞いていたんですよ。そしたら円丈が「おぉい、わん丈ぉ~、怖ぇ~よぉ~」って。

 

(一同笑)

 

それで決めて雲助師匠にお稽古に行ったんです。

 

※ もう半分:ある居酒屋の常連の親父。実に変わった飲み方をする。一合の酒を一度に頼まず、はじめに半分の5勺を飲みきってから、「もう半分…」と残りの5勺を頼むのだ。背筋がぞくぞくっとする、かなりおっかない怪談噺。

 

 

― わん丈ストリートで聞いた「紙入れ」はじめ改作にも意欲的です。

 

あれは落語を短くするのはできるようになったから(2年目の課題である落語を短くすること)、逆に今度は落語を長くしてみようと思ってやってみたんです。だからあの「紙入れ(※)」お三味線の音を入れたりとかしてるでしょう。落語を長くするってどんな気持ちなんだろうって。

 

※ 紙入れ:貸本屋の新吉は出入り先のおかみさんに誘惑され旦那の留守中に…。そんな時、予定外に旦那が帰宅して…。いわゆる「艶笑落語(バレ噺)」としてお馴染みの間男もの。

 

― (噺を)短くもできました。長くもできました。そして長講も今やろうとしている。あとは、噺をどうしたいとかありますか?

 

僕の良い高座、良くない高座の判断は完全にお客様の笑顔からの逆算なんですよ。だからとにかくお客様を楽しませる噺をやりたい。新作も古典のくすぐりも「これを言ったらお客様が笑顔になるんじゃないかな」って想像すると浮かび上がってくるんですよ。だから「僕のこの芸術的感覚を見てくれ!」みたいなものはあまりありませんね。