三遊亭わん丈 独占インタビュー(3)

初めて落語に対する飢餓感が。落語をやりたくて、やりたくてたまんなくなりました。

― とにかく挑戦的、画期的な試みを続けるわん丈さん。円丈師匠(※)のお弟子さんとして”わん丈的実験落語(※)”とか。そこまで振り切っちゃうようなお考えは無いですか?

 

(師匠の円丈がやった)あそこまでの実験性があるかはわかりませんがずっとやってるつもりですよ。それなんですよ、僕あんまりそのイメージないでしょ?すごい実験的な新作をやってるイメージを持たれてる人って「俺は古典をやらずに新作だけで勝負してる!」っていう人でしょ。

 

― はい

 

あれは売り方がうまいなと思う。僕はそのあたり不器用ですよね(苦笑)前回のインタビュー記事で「わん丈は、古典も新作も改作もいろいろやる」って書いて下さったじゃないですか。僕が古典落語をやるのは新作のためってのもあります。やっぱり古典がメインの落語会が多いから、古典をやればそれだけ僕を見てもらえる回数は増えます。で、気に入ってくれた方が僕の独演会にいらした時に新作を見てくだされば、これこそ新作落語の広げ方だと思います。「わん丈は古典に逃げた」なんて言っているのを一度聞いたことがありますけど、なんじゃその考え方って思いますよね。古典は逃げ場所なんて甘いところじゃないです。僕は「餅は餅屋」は落語にはないと思ってますよ。

 

あと、古典をやるもう一つの理由があるんですよ。これの方が怒りが強いかな(笑)。まずこの世界、基本的に前座の5年間は古典しかやらせてもらえないでしょ。二つ目になってその5年間を捨てたら損だからです(笑)。 

 

三遊亭円丈(さんゆうていえんじょう):昭和の落語界を代表する名人の一人と称される6代目三遊亭圓生の弟子であると同時に、奇想天外な世界観の新作落語(「実験落語」とも評される)を数多く生み出し、現在の新作落語の使い手、トップランナーたち(例えば春風亭昇太師・柳家喬太郎師ら)に多大な影響を与えた不世出、唯一無二の噺家。渋谷ジァン・ジァンの「実験落語」の他、池袋文芸座の「応用落語」、新宿プークの「落語21」、「落語ちゃん」など数々の新作の会を立ち上げて来た。

実験落語:三遊亭円丈師匠が主催した実験的な落語会。1978(昭和53)年から、1986(昭和61)年まで渋谷ジァン・ジァンで行われ、現代に至る新作落語の源泉となった超エポックメイキングな会。

 

あ、そうだ。この1年半くらいで変わったこと、思い出しました。

 

― はいどうぞ

 

独演会の作り方を変えたんですよ。埼玉の飯能で会をやってくださっている小久保さん(※)ていう方が落語を題材にした演劇をやられて、招待して頂いたんです。そしたら古典落語6つが演劇になっていて、すごく面白かったんです。

 

※ 小久保さん:有望若手応援寄席 (埼玉県飯能市の地域寄席)のお席亭。

 

その会の構成が気になりまして。6作演じていく中で、3作⇒仲入り⇒3作だったんですけど、2作目と5作目がボリューミーだったんですね。普通の感じだと、仲入り前と最後にボリューミーな題材が来ると思うんですけど、真ん中の2作目と5作目がボリューミーだった。小⇒大⇒中(くらいのネタ)という構成。実は大師匠の圓生師匠もそういう風な構成にしていらっしゃったみたいなんです。で、「あ、これいいなぁ、いまの時代に合ってるなぁ」って思って、独演会で2作目に大きめのネタをやることが増えました。

 

もちろん小⇒中⇒大のパターンもやりますよ。特に落語がそこまで浸透していない地域、僕の故郷の滋賀とかでやる場合はこの普通のパターンが効きます。今までの滋賀公演で一番成功したのは、夏でしたけど仲入り後に「芝浜(※)」を やったんですよ。これはお客様の反応が良かったですね。こういう感じで独演会のパターンが増えたのも強みかな。

 

ネタ選びの方法もこの演劇体験によって変わってきました。寄席や一般的な落語会は全部の噺の内容がなるべくかぶらないようにしますが、逆に僕の独演会では、全ての噺に共通の何かを入れて、敢えて繋がりを持たせてっていうこともし始めましたね。

 

※ 芝浜(しばはま):三遊亭円朝が「酔っ払い、芝浜、財布」から作った三題噺であると言われている(確証はないらしい)。三代目桂三木助の改作が有名で、三木助による名演以降、夫婦の愛情を描いた屈指の人情噺として知られるようになった。年の瀬、年末に演じられることが多い。

 

― ほらやっぱり。いろんな面で実験的ですよ、わん丈さんは。

 

(もぐもぐタイム突入)

 

食べてるところ、撮ってもいいですよ (笑)

 

 

― わん丈さん、前回(の取材時)もフレンチトーストを注文なさっていましたね

 

(笑)そうですかぁ。よく覚えてますね~。すごいなぁ~。好きなんですフレンチトースト(笑)

 

― ちなみに今回の予約状況なのですが、前回わん丈さんを観た方で今回もリピートしてくださる方が多いです。次回の日程が決まったその日のうちにTwitterとFacebookで告知をして、ご案内希望のお客様に連絡を入れると、4~5日であっと言う間にキャパの半分が予約で…

 

うそっっ!! すんごい!!ありがとうございます。

 

あ、そうだ!思い出した。変わったことやった。やりました。おもしろいことやりましたよ。二人目が産まれるときだ。

 

― なんですか?

 

僕、(二人目が産まれるとき)仕事を全部断ったんですよ、出産に立ち合いたかったから。

 

― へえー

 

予定日の前の3週間分ぐらい、丸っとスケジュールを空けました。一年前から頂いていたお仕事以外全部お断りさせて頂きました。子どもって生まれるまでなにがあるかわからないからなんか事情も言いにくいんで、干されたらどうしようとか思いながらも断らせて頂きました。

 

僕ら(落語家)って絶対に生涯に一兆円・二兆円って稼げないじゃないですか。このまま仕事中心の生活してたら…って思ったときに「お金じゃないな」と。なんかもっとお金以外の自分にとっての価値のある時間の使い方とか、自分で自分の人生を素敵に操作するっていうことを自らの意思で選択しないといけないなと思って。それやってみたんですよ。

 

そしたらやっぱり落語家ってのはすごいですね。どんな過ごし方、生き方をしても無駄はないです(笑)。いつもと違う面白エピソードがいっぱいでマクラはできるし、落語をやりたくてやりたくてたまんなくなるし(笑)。僕前座時代含めて高座に3日間上がらなかった日って無いんですよ。だからその休み中の高座に対する飢餓感がすごくて(笑)

 

あと仕事を控えていたその時期も稽古材料はたくさん持って待機してました。その間に覚えたから今こうしてネタ卸しがいっぱいできてますね。結果、休んでいいことだらけ~みたいに思ってます。出産にも立ち会えました。

 

― 随分、変わりましたよね。わん丈さん。変わっていく姿を追うことができていることを落語ファンとして光栄に思います。変わることを良しとしない人もいますが、人は変わるものだと思っていますので、今日言っていることと、来年言っていることが仮に違っていても、私は全く構わないと思っています。

 

僕、絶対また変わってますよ。前回のインタビューを改めて読み返してみたんですけど。なんか…うん…一年半前の僕ですよね(笑)。

 

― 本当に素晴らしいと思います。前回は「僕は自分の家(実家じゃない方)の話はあんまりしたくないんですよね~」っておっしゃっていて…

 

無理無理(笑)。だって、嫁と子どもってこんな僕を一番受け入れてくれてる存在。素敵な人たちなんで仕事が終わったらすぐ帰るんですよ家に。家が一番楽しいから。

 

― 前回のインタビュー時に「アウトプットしているのが楽しい。アウトプットのためのインプットを続けています」と。1年近くのうち、代表的なインプットについて教えてください。どんなインプットがありましたか。

 

子どもの存在ですね。これは子どもがネタになるということだけじゃなくて、子どもの存在によって色んなものの見方や考え方が変わってきたということでもあります。あとは、子どもをみてると昔の面白かったことを思い出したりして。

 

だから僕にとって一番楽しい場所は家なんですよ。あ、高座も一番だなぁ。まあ置いといて(笑)。稽古というインプットは辛いものです。でもそれを一番楽しい「僕の家」という場所でできているのは幸せです。僕らって自営業だから一日中仕事が頭から離れません。だから仕事が楽しくないとかなり辛い人生になっちゃいますからね。