三遊亭わん丈 独占インタビュー(2)

「お客様の反応を受け止めて次に活かす。そこまでが勉強会」。

『ハマのわん丈』では、さまざまな新しい試みに挑戦。

― 最近、落語を初めて見に来る方が増えていると感じるのですが。

 

滅茶苦茶感じます。肌で感じます。仲間からも同じようなことを聞きます。

 

特に今まで通りにやってちゃいけないんだなとすごく感じたのが横浜での独演会「ハマのわん丈」でのことです。三題噺(※)をするのが恒例の会です。

 

※ 三題噺(さんだいばなし):お客さんに、その場で出してもらった題目三つを織り込んで、一つのネタに仕立てるライブな演じ方。度胸と技量が必要。有名な「芝浜」も三題噺から生まれた。

 

毎回、その場でお客様からお題を頂き、その場で「即興三題噺」を創ります。挙手制でお題を取るんですが、どうしてもご常連の方中心になっちゃう。初めてのお客様はなんのことかよくわからないままに会が進行していく。舞台上から「これはなにをやっているのだろう?」ときょとんとしているお客様のお顔に気が付きました。ほんと数名なんですけどね。(手を挙げにくいなぁと)委縮している感じとか、そもそも三題噺ってなに?それは難しいことなの?的な。これは僕が悪いなと思いました。

 

僕の落語会をご常連さんのためだけのものにはしたくないんです。それは僕のご常連の方も思っていらっしゃると思います。その感じを忘れないようにやってるつもりだったんですけどね。だから今後、挙手制は止めて、開演前に皆様にこっそり書いて頂けるようなシステムにします。

 

― それはよいですよね。みなさん書きやすいですしね。

 

はい。

 

― 新しいことを試みて、それに対する反応を見て、の繰り返し?

 

この横浜の会も3回やってみて、もう色々やり尽くしたなと思ってましたけど、まだまだ改善点があった。それに気づけてまたやる気が出てきました。

 

自分のやりたいことを発信してみるだけで終わりじゃない。それに対するお客様の反応が返ってきて、それを受け止めて次に活かす。そこまでが「勉強会」だと今回のことでよくわかりました。

 

― 自分が書きこんだお題のホワイトボードがSNS上に上がっていると、お客さんとしてはうれしいかも知れません。「これ、私が出したお題だ!」「このとき、この会に居たんだよ!」って。なんか、“いっしょに作り上げていく感”がびんびんしますし。

 

はい。いま僕の高座の写真をお客様に撮って頂ける機会を意図して増やしているんです。一度そういうことする会に呼ばれて、やってみたらお客様が喜ばれていたので。それと写真が拡散して欲しいのは、それが「落語」そのものの宣伝になると思うからです。自分だけじゃなく「落語って面白いらしいよ」という口コミが広まってほしい。口コミの威力ってすごいじゃないですか。それで一人でも多くの人が初めて落語会に足を運んで下さったらいいなと。

 

いま僕が一番うれしいなと思う効果。それはAさんという僕のファンの方の口コミで、お友達のBさん(落語初の人)が見に来てくれることなんですね。

 

で、さらにその後、BさんがAさんに「落語を教えてくれてありがとう。楽しかった!」なんてお礼を言ってくれたりしたら紹介したAさんもうれしいじゃないですか

 

でも基本的に高座中の写真撮影はお断りしています。鑑賞の妨げになるので。だから普通撮影OKの会は、最初に撮影タイムを設けたり、最後に設けたりします。でもそれも何度かやって、もう少し面白いことができないかなと思ってきて、先日の「ハマのわん丈」では「その噺の間、いつ撮影しても OK!」なルールで一席やりました。「みんなでカメラを持って昔の長屋を盗撮しよう!」っていう趣向で、それ用に古典の世界感の新作落語「るうむしぇあ」というのを作りました。

 

― あいかわらず、挑戦的というか、斬新ですね。

 

あまりしないようにはしてるんですけどね。そっち(斬新な趣向)ばっかりに頼ってしまいがちになるので。

 

― 「撮った写真は、SNSでハッシュタグ(※)を付けて投稿してね!」と言うのはどうですか?「 #落語 」とか。「 #わん丈 」とか。

 

あんまりそういうのわからないんですけど、拡散されるならぜひ。

 

― くがらくのとき、紙に「ハッシュタグを付けて投稿してね!」と掲げてもいいですか?

 

いいですよ。やりましょう、それ。おもしろいかも。(※)

 

※ ハッシュタグ:SNS上で記号の「#(ハッシュマーク)」を入れたキーワードのこと。

※ 次回のくがらく(わん丈さんの回)では、冒頭に《写真撮影タイム(落語会が終わったらハッシュタグを付けてSNS投稿してね)》が設けられるかも?知れません。こうご期待!

 

― ところで、今回のチラシですが(わん丈さんが振り返るポーズの写真なので)「リターンズっぽい」と写真がひとまず評判になっています。

 

ははは。あの写真、いいでしょう。「自発的に動かない」がモットーの僕。それは円丈からの教えです。そうすると宣材写真が次第に古くなっていく。それをさすがに見かねられたのか、橘蓮二さん(※)が「わん丈さん、前と(姿が)変わって来てますよね。撮り直しませんか?」と仰ってくださって。「リターンズ」っぽいでしょ(笑)。色んなカットを撮って頂いたんですが、今回使うならこの写真がいいなと思ったんです。

 

※ 橘蓮二(たちばなれんじ):20年以上にわたり寄席演芸を撮り続けてきた写真家。

 

「新作落語のネタ卸しは、当日の30分前から考え始めます」

 

― 先日の「ハマのわん丈」でネタ卸ししたもう一つの新作「お裁きしたーい」について教えてください。

 

まずあれはネタ卸しというか三題噺です。もう2年くらい前ですが、お世話になってる方に文楽(ぶんらく)に連れていってもらったんです。「玉藻前曦袂(たまものまえ・あさひのたもと)※」という。この作品の中で、狐が化けた花魁がお裁きをするシーンがあったんです。文楽って大爆笑するシーンなんてないと思ってたら、このシーンが緊張の緩和もあってドッカーン!だったんですよ。で、その連れてってくれた人は役者さんたちと顔なじみで、帰り際に私も少しお話させて頂いたんです。そしたら関係者の方が「わん丈さん。良かったらこれを落語にしてください」って言ってくださって。で、結局そのまま頭の中に2年くらい置いたままだったんですが、先日三題噺をやった時に「あっ!あのネタ、今ここで使えるんじゃないか?」と思って作りました。

 

玉藻前曦袂(たまものまえ・あさひのたもと):全五段からなる文楽の演目。天竺(てんじく)から唐・日本と渡った金毛九尾の狐の伝説を脚色したもの。

 

― よくそんな引き出し、開けましたね。

 

そうです。だから、三題噺に取り組むことは大切だと思っています。

 

― 運動神経って言うか、ひらめき、瞬発力がすごい。

 

そのときのお客様とのやりとりから新たに作り出すだけでなく、瞬間的に引き出しを開けて合成もしなきゃ即興での三題噺はできません。よくこんなことできているなと自分でも思いますが、元をたどると前座修行のプークのおかげですよ。プーク人形劇場新作落語寄席(※)。

 

※ プーク人形劇場新作落語寄席:新宿南口の人形劇の劇場「プーク人形劇場」で定期的に行われている新作落語の会。

 

正月とお盆の、寄席が一番忙しい時期にプークもあるんですよ。その前座だからもうヘトヘトの状態で、寄席修行終わりで向かうんです。お客様も厳しいし、新作の先輩方って僕からしたらなんかみんな一門の兄弟子みたいな感覚だから背筋もいつも以上に伸びるし、 客席の上の方から師匠も見てるしって中で、新しいネタをしないといけない。正月なんか昼は寄席のいろんな師匠方のお世話だけで頭の中はいっぱいいっぱいなんですよ。だから、プークまで行く電車の移動時間30分とかで新作(落語)を考えていました。その経験がいま生きていますよね。だから、そこも腐らずにやって良かったなーって思います。

 

― 当日の、しかも30分前に考え始めるんですか!新作落語

 

はい。寄席からプークまでの所要時間が約30分(笑)

 

― うははっ

 

頭で「こうやって構成して構成して構成して…」、で紙にパッパッってキーワードだけ書いて。ほいで、喋ってる間に繋ぎながらサゲに向かっていくわけです。それがどんどん上手になってくるんです。だからいまだに僕、新作のネタ卸しって台本の無い状態でやって、それを録音しといて、家に帰って文字に起こしてってやり方。だから僕の新作は形になるまで他の新作派より時間がかかってると思います。

 

― 一週間前に考えておくとか、そういうことではないんですね?

 

一週間前は、一週間前の仕事がありますから。それに集中してます。

 

― すごい!新作を考えるプロって。30分前に思ったことで落語にして形にして出さなきゃいけないわけですから。

 

でも、古典に関してはメロディーとリズムを大事にしたいので、古典のネタ卸しだけは事前の稽古はしますよ。でもその古典に施す工夫はやはりお客様にやりながら創っています。

僕この世界に入ってから、毎日その日の事しか考えられない状態が続いてるんです。だから前座の時にこんな経験ができたのはラッキーでしたね。

 

また、前座の時から忙しくさせてもらったことによって、忙しい生活っていうのがどういうものか、忙しいことが本当に自分に合っているかどうか、どのぐらい忙しいのが自分にとって幸せかっていうのを見極めることができたのも今のこの好調に繋がっています。

 

しかし我慢強くない僕がよく5年間も修行できたなぁと今ふと考えたら、そういえばあの頃は別の人格を形成して修行を楽しんでやっていましたね。

 

― いまは年間何席くらい高座に上がってらっしゃいますか

 

今年は1年間で1000席くらいになりそうです。

 

― 年間1000席ってすごい数字なのでは?

 

どうなんでしょうね。よくわかりません。独演会をやっていると一度に3席はできますからね。二つ目になって1年目が1200席でしたから慣れました。ちょうどいい感じですよ。ほぼ毎日人前出られて、ほどほどに休みがあり、夢中で落語ができてる。今が一番いい。まぁ僕は常に「今一番いい」って言ってる気がしますけどね(笑)。

 

― 前回は目の前の目標(?)として、宮治さん(※)、一之輔さん(※)を挙げていました。いまは誰ですか。

 

僕もう、それ(過去のくがらくインタビュー記事)!今回読み直してみて恥ずかしくて(笑)。こんなはっきりとお名前を出してたんだ~と思って(苦笑)。この部分もめっちゃ変わったところですよ。

 

もちろんお二方のことは変わらず尊敬してますけど、この半年くらいかなぁ…「自分らしい高座」っていうのができるようになってきたんです。全く今インタビューしてもらってるのと同じ状態や家(うち)でしゃべってるのと同じ状態で高座に上れて、しかもそれが“なあなあ”じゃない状態。そしたらもう誰かと比べるとかじゃないなって。

 

春風亭一之輔(しゅんぷうていいちのすけ):言わずと知れた当代切っての人気若手落語家。飛ぶ鳥を落とす勢い。

桂宮治(かつらみやじ):桂伸治一門。「成金」のメンバー。

 

― では今は憧れている人はいないのですか

 

植木等(※)さんですかね。

 

― へぇ~。唄って、踊れて、喋れて。

 

なおかつオシャレ。昔から好きなんです。僕が履物などにこだわるのも、植木等さんの影響です。植木等さんて、いつも靴ピカピカなイメージです。どの映像見ても。世代的には追いついてないですけど、いつもきれいで、格好いいですよね、あの人は。何でもできてスマートな印象が強い。だから僕も古典やって新作やって改作やって漫談やって。なんか当たり前にやっぱり落語にたずさわるコトは全部やりたい。ここは1年半前と変わってないですね。

 

植木等(うえきひとし):日本の俳優、コメディアン、タレント。稀代のエンターテイナー。「ハナ肇とクレージーキャッツ」のメンバー。映画「無責任シリーズ」の主役。「スーダラ節」など歌手としても大ヒット。

 

― わん丈さんは他の人の噺を聴いてない・観てないっておっしゃいますけど。

 

それは以前ある師匠に「お前はしばらく他の人の落語に影響を受けずにやってみろ」と言われたからです。僕誰かに何か言われたらなんでも実践してみるんで。でも鶴瓶師匠のことがこの世界に入る前から好きで、トーク番組は今でもたくさん見てますよ。どこが好きかと言うと、あの方は“クルー感”が無いんですよ。昔からテレビを見ていて、テレビスターの方々はどなたも一緒に笑いを作る色んなお仲間の存在があるなぁと素人なりに感じていましたが、その中で鶴瓶師匠だけはいつも孤高なイメージだった。だから落語家ってすごいなと思っていた部分もあったのかもしれない。

 

― 一匹狼な感じは好きですか?

 

好きですね。僕もそうだと思っています。スケジュール管理も全部一人でやってます。何のフィルターも通さない僕一人を生で見てもらえる喜び。家にいても高座にいても一緒。スイッチのオン・オフ無しで人生やっていけるってことが僕の中で一番幸せなことです。